里山の中の里山、「屋敷林」が迎えている危機

2013年4月24日(水)

砺波平野特有の散居村。遠目にはカイニョ(屋敷林)が残っているように見えても、住宅地や倉庫が目立ちます。

里山の中の里山、「屋敷林」が迎えている危機

 

 先日、信州・安曇野の屋敷林を見学する機会がありました。屋敷林とは、文字通り家の敷地を囲む林です。防風や防雪、気候緩和を主目的にしているため、家々が孤立する平野部の農村で見られます。農村自体が里山なので、「里山の中の里山」といった空間を形作っています。よく知られているのが、砺波平野のカイニョと、仙台平野のイグネです。

 安曇野の屋敷林には、スギ、ケヤキ、カキ、カエデ類など、多くの樹種が植えられていました。これは各地の屋敷林に共通する特徴です。なぜならば、それぞれの木は、役目を果たすために植えられているからです。例えば防風には、冬に葉を落とさない常緑樹が適しています。屋敷の建替用材には、スギやケヤキが有用です。カキなどの果樹を植えれば、日常食や保存食を確保することができます。このように屋敷林は、人類の叡智と自然が溶け合った、貴重な環境なのです。

 しかし、この屋敷林も消滅する一方です。建材やライフスタイルの変化などによって、屋敷林の木を使わなくなった反面、手入れに時間と費用がかかるためです。また、所有者が代替わりするとき、相続税対策として手放される例も増えてきました。所有者が変わった後、大半は小割された住宅地や倉庫などになってしまいます。それも時代の流れですが、屋敷林の伝統を守るために、各地で保存に向けた活動が始まっています。本コラムで、追って保存事例をご紹介したいと考えています。

(社内報kami-cocoro 里山マイスターの「里山通信」vol.13を転載)

特定非営利活動法人里山保全再生ネットワーク

岩間 敏彦

特定非営利活動法人里山保全再生ネットワーク代表理事。本業(ライター・カメラマン等)で培った技能を生かして社会貢献をしたいと考え、里山保全を始めとする環境保護活動に参加してきた。現在は里山保全・再生に軸足を置きつつ、複数の環境NPOで代表理事・理事などを務める。